青山晋也さん(第6期・卒業生)
“どろんこ”を楽しむ哲学者農家──丹波の大地に根を下ろす
京都府から移住し、丹波市春日町で新たな農業の道を歩み始めた青山晋也さん。学生時代には哲学を専攻し、古今東西の思想書を読みながら「自分とは何か」「時間とは何か」といった問いを探究してきました。だが40代後半に差し掛かったとき、彼は人生を「終わりから見た」視点で考えるようになります。そして、悠久の時間を生きてきた“土”や“農”という営みに惹かれ、農業という選択肢に自然と向きあうようになりました。
農業は、長い歴史のなかで人と大地をつなげてきた営み。土と切り離せない仕事に携わることで、自分自身もその流れの一部になれるのではないか――そんな思いが移住と就農への決意につながったのです。
学びの場として選んだのは、農の学校。地域資源をいかした循環型農業を掲げるこの学校の理念に強く共感しました。そして、有機栽培の多様な手法を比較しながら学べるカリキュラムこそ、自らの農業スタイルを探るうえで最適だと感じたといいます。ネットや書籍で様々な技術が紹介される中、「自分の土地・気候・客層に合った方法は何か」を探るには、実践と比較が必要だと気づいたのです。
さらに、1年間全日制で畑に出て学ぶ“集中型”のスタイルも、自分には合っていると判断しました。京都が近く、家族や時間のつながりも保てる丹波であることも、移住先としての決め手でした。
入学後、特に印象的だったのが月曜に行われる「圃場ツアー」。先生と受講生全体で畑を巡り、作物の生育状況や次の作業を話し合うこの時間を通じて、教育的な枠を超えた“暮らしと営み”が見えてきたと青山さんは語ります。さらに、トラクターの耕耘練習と試験という体験も、「泥んこになって動き回る」ことで得たリアルな実感が、学びとして体に残ったそうです。座学では「育土(いくど)」という土を育てる概念や植物生理の講義もあり、彼の知的好奇心を満たす内容でした。
そして何より、農村の風景と時間の流れに対する彼の認識が変化しました。哲学者たちが言う「空間の履歴」という言葉を借り、田畑やあぜ道に宿る何十世代もの営みの痕跡を目にし、「自分もこの流れの一部になるのだ」という覚悟が芽生えたのです。
今、青山さんが育てたいのは、「忙しさの中で忘れていた童心や原点を思い出させてくれる、素朴で懐かしい味の野菜」。また、地域の人とともに野菜を育て、野菜を買ってくださる方には、泥を踏み、溝を掘りながら大地と向き合う“農家の日常”まで楽しんでもらいたいと語ります。丹波の粘土質の畑だからこそ「泥んこになることを楽しめる人が重要だ」という言葉が印象的です。
「地域の方々と笑いながら野菜を育ち、同時に土とたわむれて童心に返るような時間を共有できたら最高ですね」と青山さんはにっこりしました。
哲学者としての視点と、泥まみれになって汗をかく農作業。これらをあわせ持った青山さんの農業は、地域の風景を大切にしながら、静かに、しかし確実に、時間の流れに手を添えていく営みです。
