山川拓哉さん(第6期・卒業生)
「持続経営できる有機農家を目指して」
地元・丹波で新たな一歩を踏み出す山川拓哉さん
幼い頃、祖父母の畑で野菜を収穫した記憶が、山川拓哉さんの“農”の原点だ。社会人になってからも家庭菜園を続け、野菜が育つ手触りや収穫の喜びは、いつしか「これを仕事にしたい」という思いへと変わっていった。一方で、地元丹波では農業をやめる人が増え、田んぼがソーラーパネルに変わる光景を前に、「この風景を守りたい」という強い気持ちも芽生えた。「50歳になったら農業を」と考えていた計画を早めた背景には、この“今動かねば”という焦りがあった。
就農に向けて学びを求めた山川さんが選んだのは、地域で実践者から学べる「農の学校」。家庭菜園では失敗しても原因が分からずに終わることが多かったため、基礎から体系的に学べる場所を必要としていた。見学会で出会った講師が、栄養価コンテストの最優秀賞を受賞した実績を持つことも大きな決め手となった。「この先生のもとなら、美味しくて栄養価の高い野菜が作れるはず」――そう確信して入学を決めた。
実際に学び始めると、「水の大切さ」「野菜ごとの性質」「土づくり」など、言葉として知っていたつもりの基礎が、実体験を通して腑に落ちていった。ときには苗を全滅させてしまう失敗もあったが、理由を仲間と共有し、改善方法を考えられる環境が大きな学びとなった。また、経営講義では販路ごとの特徴を分析し、自分に合う販売スタイルを考える視点が培われた。
目指すのは、丹波の気候に合う野菜――サツマイモ、ニンジン、白ネギ、黒枝豆、ホウレンソウ、コマツナなどを、美味しく栄養価の高い“普通だけれど特別な野菜”に育てること。乳酸菌や納豆菌など「菌の力」を生かした有機農法にも取り組む予定だ。顔が見えるお客さんに、多品目の野菜を少しずつ届け、「この前の野菜どうでした?」と味の感想をやりとりできる関係をつくりたいという。
「平凡な自分でも、正しい学びと積み重ねで黒字経営ができると示したい」。そう語る山川さんは、日々の作業データを記録し、これからの新規就農者の道標になる存在を目指している。
地域の風景と暮らしを守りながら農業を続けていく――その真っ直ぐな姿勢が、未来の丹波の農業に静かに力を与えている。
