辻剛宏さん(第5期・卒業生)
50代で農業の現場へ再挑戦
「緑肥の研究者から生産者へ」——農の学校で見つけた新しい生き方
若いころから植物が好きで、大学では農学を専攻。農業関連企業に就職し、緑肥作物の研究や開発に携わっていた辻さん。しかし、キャリアを重ねるにつれ次第に現場から離れ、50代半ばでふと立ち止まりました。
「もう一度、土に触れたい。自分の手で作物を育ててみたい」——そんな思いが心に芽生えたといいます。
基礎から学べる場を探す中で出会ったのが「丹波市立 農(みのり)の学校」。有機農業の先進地・丹波で、栽培技術だけでなく農業経営まで体系的に学べる点、そして卒業後の就農相談体制が整っている点に惹かれました。
「有機農業に挑戦できる環境があり、自然とまちのバランスもちょうどいい。学ぶならここしかないと思いました。」
入学後は、座学で植物生理や土壌環境などを学ぶ一方、実習ではトラクター操作や播種・定植などを実践。印象に残っているのは、同級生と担当したブロッコリーやカーボロネロの栽培です。酷暑の中での水やりや虫取りに苦労しながらも、最終的に収穫した野菜が全国大会「身体に美味しい農産物コンテスト」で最優秀賞を受賞。努力が形となった瞬間でした。
また、休日には近隣の有機農家を訪ね、作業を手伝いながら学びを深めました。
「長年有機農業を続けてこられた方々の、畑への姿勢や環境への意識に刺激を受けました。貴重な経験をいただけたことに感謝しています。」
卒業後は、学校からほど近い場所で農地を借り、同級生と協力しながら農業をスタート。かつて研究していた緑肥作物を活かし、土づくりから丁寧に取り組んでいます。
「最初は多品目を試しながら、自分の地域に合う作物を見つけていきたい。将来的には豆類や根菜類、アブラナ科野菜を中心に、安定した経営を目指したいですね。」
これから始まる本格的な農業人生に向けて、辻さんは静かに語ります。
「思い通りにいかないことも多いでしょう。でもそれを一つひとつ観察して学びに変えていきたい。同期の仲間と支え合いながら、農業と真摯に向き合っていくつもりです。」
